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 ヘッドホン(イヤホンを含む)のことを考えるとき、とても大切なことがあります。人間の耳は外耳や中耳、内耳で聴覚を司る蝸牛などの周波数特性のため聴こえ方が一様ではないということです。もちろんこれはスピーカーでのモニタリングにおいても言えることですが、 ヘッドホンは耳元で発音するうえ、耳を覆うという人工的な音場を形成したうえで聴音するため、この特性の影響を強く受けます 。「ヘッドホンから出る音の聴こえ方」というのは個人差がかなりあるわけです。

 この点を踏まえると、人のコメントを参考にするのは良いことですが、解像度が高い(←これも高域がブーストしているだけの場合があります)、とか、フラット、とかベースが効いているとか、そういった特徴が皆さん自身の耳に、実際どのように聴こえるかというのは、自分にしか分かりません。ですので、目星をつけたヘッドホンを自分で、実際に試すのはとても大切なことだと思います。結論は、

誰も信じるな(私もな)

です(笑)。精神論みたいに聞こえるかもしれませんが、実際は自分が信じていれば何でもいいんです。なぜなら、それで市販の音楽を大量に聴いて、同じ出音の機器で自分の音楽をつくるわけですので。自分の音楽体験を呼び出して、同じように聴こえるまでとことん追求すれば、個人の制作においては何も問題のない話です。要はバランスをうまく作れれば良いので、ドンシャリだろうがなんだろうが、自分が良いと思ったものが一番良いです。

 ただし3000円程度の安いヘッドホンなどには明らかに劣悪な品質のものも存在します。人に聴かせる(聴いてほしい)音楽を作っているわけですから、ある程度の品質の担保は必要と思います。 その点で、先のゆにばすさんの統計を参考にするとよいでしょう。サウンド&レコーディングマガジンでも毎年特集をやっていますよね。 個人の主観で簡単に言ってしまえば、YAMAHA, SONY, AKG, SHUREなどは信頼に足る製品を作っています。どれも傾向はありますので、実際に試して自分にいちばんフィットするものが良いと思います。

 あのツイートをした真意はそこにあり、900STがダメだと言いたいのではありません。2位と約50票差の結果があまりに偏っている現実を受けて、「妄信的になるのは良くないよ」と、そう言いたかっただけです。

 さて、そうはいっても"何か"はお勧めしておきます(笑)自分が仕事で使っているものです。

 SENNHEISER HD600です。650、後継の660などありますが、フラットなのは600だと思います(私は、ですよ)。実は650も所有していて、こちらより低域が豊かです。650は鳴りが少し大振りなので、クリエイター耳の方には合うと思います。私が所有しているものはゼンハイザージャパンで保守(修理など)をやられていた方が、個人でカスタムしてくださってます。カスタムまでやりたい方は"dellimour modern"で検索してみてください。この方曰く、同じ600でも製造年によって多少違い(パーツの品質など)が出ているらしく、細かい差が生じているそうです。ハイファイオーディオ系の方に人気のようですが、ここ数年、私は実務で使用しています。劇伴からトラップまで、もちろん得手不得手はあるものの、仕事に支障がない程度に垣根なくモニタリングできるので助かっています。各所レビューの通り、クラシック向けとまではいかなくても、割とおとなしい出音の傾向なので、RMEなどの高域がハッキリ出るヘッドホン出力を持ったオーディオI/Fと相性がいいと思います。

 エンジニア耳の方には特にお勧めしたいですが、オープンエア仕様のため、耳の反対側がフルオープンです。ヘッドホンの外にも音が普通に聞こえます。制作環境によっては選べない方もいると思うので、この点だけ注意が必要です。あと、こちら悪質な偽物(ほとんど見分けがつかない)が多く出回ってますので、信頼できる店舗での購入をお勧めします。一度絶版になったのですが、2017年ごろに限定再販が決まって、サウンドハウスには在庫があるみたいです(私の分は残しておいてくださいねw)。

 フルオープンがダメな方、またクリエイター耳の方にお勧めしたいのは、

 YAMAHA HPH-MT8です。こちらはサブとして、また密閉型なのでフィールドレコーディングなどにも使用しています。最初の印象は少々音が硬かったのですが、使い込むうちに馴染んできました。ドンシャリ傾向ではあるので、RME社のオーディオI/Fのヘッドホン出力には合いません。カチカチxカチカチになっちゃうので(笑)逆にSteinberg UMシリーズのヘッドホン出力であれば、高域がそこまで強くないので、うまくハマると思います。ヘッドホンのシェルが結構深く作られていて、耳から少し離れたところから音が飛んでくるような感じなので、ヘッドホン特有の耳の中に叩き込まれるような感覚が少し薄まります。その点で自然なモニタリングができやすいと言えるでしょう。

 さて、些細な事と言いながら、2回にわたってぐちゃぐちゃ書いちゃってすみません!いつも言ってますが、誰か(特に若者、初心者)の小さな支えになれば嬉しいです。

 あ、そうそう、ツイッターのメンションでちょっと「???」なコメントがありましたので最後に。

 SONY 900STについて「いつも聴いているし、どこにでも置いてあるから安心」という書き込みがありました。正直、安心したいなら、また音楽の仕事で安定したパフォーマンスを出したいなら、自分で選んだ自前のヘッドホンくらい持ち歩いてください。簡単なことです。また、何度も言いますがあのツイート、決して900STディスではないですからね。用途を間違えなければすごく信頼できる製品です。

ではまたいつか更新します!(今回ので3年分くらい書いたので、4,5年後にまた更新しますね 笑)

 御覧の通り、ツイッター上でちょっとした事故がありました。リツイート100、いいねが300を超えたら、補足的に何か書かないといけないかなと思っていたので書くことにします。いえ、バズったから書くわけじゃないんです(笑)この、RTなりいいねなり押してくださった方々の中には、「じゃぁ何を選べばいいんですか?」と思っている方が少なからずいらっしゃるだろうなと、そう思ったからです。

 まず最初に、Synth Sonicというウェブサイトを主宰されているゆにばすさんの、貴重な市場調査のデータに感謝したいと思います。先のツイートは完全なる"乗っかり"ですので、まずそこをしっかりと理解してください。

 そしてこれも申し上げておきたい。。この記事は誰かが答えを見つけられるハウツーの類ではございません。私の経験に基づく些細な考察に過ぎませんので、決して鵜呑みにしないでください。これからの皆さんの選択の塩コショウになればと思っています。その程度の記事です。

 それでは本題です。まずは自分の「耳の傾向」を知ることから始めましょう。

以下の画像を見て下さい。

 ご自分の楽曲の2ミックスの周波数帯がこのような状態だとします。ピンクのポイントにボーカルがある。これをもっと聞きたいのだけど、全体のレベルは結構詰まってきてる。。。そういう状況を想像してください。

 この時、ピンクの周波数をEQでグイっと上げようと思った方、

あなたは「クリエイター耳」です。

 そして緑と青の帯域を抑えて、全体のボリュームを上げようと思った方、

あなたは「エンジニア耳」です。

 クリエイター耳は、緑と青の帯域を"音楽的魅力"と感じてそのままにし、足りない部分(ピンクの帯域)をさらに加えようとする傾向があります。

 こういった方々は、ご自身の好きな楽曲がノリノリで聴けるヘッドホンをお探しになると良いと思います。出音がクリアでベースも効いているのが良いでしょう。私の知る限りのお話ですが、アメリカ人アーティストは結構このタイプが多いと認識しています。だから出音がスーパードンシャリ設定のSONY MDR-7506が人気なのでしょう。おまけにKRKのモニタースピーカーもかなり人気です(笑)

 エンジニア耳は、緑と青の帯域を"過度の出っ張り"と捉える傾向があります。いわゆる修正を先に行いたいタイプです。

 こういった方々は出来るだけフラット特性のヘッドホンを選ぶのが良いと思います。 逆にこのタイプの方がドンシャリ傾向のヘッドホンを選んでしまうと、ドンとシャリの帯域を思い切り削ってしまって、中域山盛りミックスになりやすくなります。 ですので、なるべく華美な部分がなく、正確な出音でオーディオの欠陥を見つけやすいタイプがお勧めです。

 このタイプの方は製品を慎重に選ぶ必要があります。リファレンスにしている楽曲を数曲用意して、じっくり聞き比べをして、すべての曲が思ったように鳴る製品を選ぶと良いと思います。この曲はバッチリだけど、こっちの曲はボーカルが聞こえづらいな、といったことはよくあることです。

 かくいう私はと言いますと、クリエイター耳でありたかったけど、エンジニア耳に該当します(笑)。どちらが優れているということは無いので、ご自身の傾向をしっかり理解し、良い製品を選んでください。

つづく

 これは2020年の段階でラウドネス規制に対して、どのような理解をすべきなのか自分なりに考察したものです。個人の見解ですので「正しさ」を求めていませんし、制度編纂の過渡期にいる以上、明日は全く違う考え方をせねばならないかもしれない、ということは最初に書いておきます。

 各社ストリーミングサービスのラウドネス規制のおかげで音圧をそこまで上げなくてもよくなったので、それまでいかに音圧を上げるかに従事しエンジニアリングしていたことから考えれば、、、

ミックスが楽になったように思われがち

です。が、実は逆で、youtubeほか各種ストリーミングサイトの音圧基準に準じて音楽を正しく響かせる場合、より精度の高い音作り、ミキシングが求められるようになっています。

 イントロ~ひら歌~サビのダイナミクスの変遷はもちろん、音の近い、遠いなども詳細にコントロールする必要があるうえ、これまで音圧のためとされてきたマキシマイズも、聴感上の迫力を生むためのクリエイティブなマキシマイズ(つまりコンプ的なw)として考える必要も出てきています。

 エンジニアリングだけでなく、トラックメイク、楽曲アレンジの面でもいろいろ考慮することが増えました。より空気感リバーブ音の少ない音(つまりリバーブを排除したシンセの原音のような)でアレンジを構築した方が音像が近く(音的には大きく)聞こえます。これはもともとアレンジスキルとしてはそういうもの(つまり常識)だったのですが、Youtubeなどでの"映え"を狙うのであれば、全体的にその傾向が強くなると予想できます。

 アレンジをしていて気づきにくいのは、音色にくっついているルーム音です。ごく短いリバーブ音と捉えるのが普通ですが、実音に短くくっついているため、気づきにくいです。打ち込み音楽の場合、ドラムのハイハット音やスネアにちょっとルームが乗っているくらいならば何も問題は無いと思います。しかしその音が重なって、各音色に付いているルーム音も重なりますので、音像全体を遠く感じる原因になってきます。

 また最近の海外のトップヒッツを聴いていて感じるのは、人工的なリバーブや空間処理が増えたということ。果てしなく精度の高いインパルスデータを用いた高級リバーブというより、ある意味コントロールしやすい、人工的な空間で音像を構築している曲が増えました。加えられている空間が良い意味で味気なく、人工的に感じるため、ちょっと合わなそうな空間を持った音色をいきなり放り込んでも、違和感なく、むしろ小気味よい展開として聴けるようになってきているようです。

 何も、どの音色も無空間、眼前に音が張り付いている楽曲が良いとは言っていません。ただ、過去にCDやラジオでの "映え"を狙って音圧を上げる必要があった事と同様、別の、ストリーミング基準に準じた "映え"を求められるようになっているので、手法や考え、その取り組みも変わってきているということです。

 このことについては色々な方が参加して議論(とまではいかずとも)の余地が大いにあると思っています。コメントお待ちしております。